平成21年度卒業論文表彰

2010/3/5 金曜日 行事 | コメントは受け付けていません。 satoru @ 16:42:42

 平成15年度から経済学部の同窓会である瑞山会による卒業生の表彰が行われています。表彰の対象は、学業成績だけでなく、卒業論文、資格取得、スポーツ、文化活動、あるいは懸賞論文における優れた成績、さらにボランティア活動のような社会活動などに渡っています。

 本年度の「卒業論文表彰」を受賞したのは森田ゼミの村越さんの論文で、審査員一同は高い評価を与えました。論文で彼女が取り組んだのは、所得税制度における控除の在り方について現行制度の抱える問題点を意識したうえで、日本においてアメリカやイギリス、オランダなどですでに導入されている給付つき税額控除制度の導入の可能性を探ることでした。指導教員からは、「本論文における議論の進め方や分析手法については荒削りであり、必ずしも当人の主張のすべてが明確な形で実証されているわけではない。しかしながら論文作成の過程においては、制度や実施状況、その効果を理解するにあたって実施国の財務当局の生の情報を拾ってくるという作業を丹念に行い、オリジナリティの高いシミュレーションによって一定の成果を挙げている。ここで得られた分析結果は今後の所得税制度のあり方を考えていく上で重要な情報を提供していると考えられる。」と論文を推薦していました。

 以下に論文の要旨を紹介します。

日本における給付つき税額控除の導入を考える

氏  名  村越あゆ子
指導教員  森田 雄一

【要旨】
  近年の日本では、貧困問題が深刻化しており、さらに、働く貧困層であるワーキングプアの増加も問題視されるようになった。このような問題への対策として注目されつつある制度が「給付つき税額控除」である。給付つき税額控除とは、所得税の税額控除額が算出税額を超える場合にその超える部分の金額を給付するという制度である。本制度を適用すると、税制による所得の再分配を行うことができ、さらに、控除・給付の条件を定めることにより、多様な政策手段の実現を図ることができる。
  アメリカでは、1975年に給付つきの勤労税額控除制度(EITC)が導入され、1994年には、「年間フルタイムで働く人々が貧困者でいるべきではない(Work Makes Pay)」という考えのもとEITCが大幅に拡充された。また、1997年には中低所得者の子育て支援策として児童税額控除制度(CTC)が導入されている。
  本論文では、2008年の制度を用いて“Work Makes Pay”が実現しているかどうかを検証した。その結果、EITCは、EITCとSNAP(栄養捕捉援助プログラム)を両方受給すれば、最低賃金でフルタイム労働の場合貧困レベルを脱出できる金額に設定されているため、Work Makes Payは実現していることが分かった。さらに、EITCはフルタイム労働者のいる世帯、母子世帯などを中心として低所得層の貧困脱出に大きな役割を果たしており、ワーキングプア対策として一定の効果を上げている。
  また、EITCやSNAPでカバーしきれない貧困者を対象とした公的扶助制度がTANF(貧困家族臨時援助)であり、アメリカではこれらの制度が補完し合いながら適用されている。日本でこのようなEITCを導入する場合にも、政策の目的や対象世帯を明確にすることや、社会保障給付、所得控除など他の制度との整合性を考えることが重要となる。
  日本における低所得者支援策としては、生活保護などの社会保障給付や扶養控除や配偶者控除をはじめとする所得控除が挙げられるが、これらの制度による所得再分配の状況は高齢者世帯や不就労世帯に偏っており、勤労世帯、特に母子世帯への再分配効果が乏しい。よって、ワーキングプア対策として給付つき税額控除を導入し、勤労世帯への基礎的な所得保障を整備することには重要な意味があると考えられる。
  本論文では、アメリカの制度を参考とした給付つき税額控除の具体的な導入案として、勤労税額控除と児童税額控除の導入を提唱している。税法は平成20年のものを採用し、財源は所得控除の見直しにより確保した。この案を採用すると、現行制度と同程度の税収を確保しつつ低所得者の可処分所得を増加させ、アメリカと同様の“Work Makes Pay”を実現することができる。
給付つき税額控除は今までの日本の税制にはなかった全く新しい制度であるため、その導入には様々な制度上の問題がある。しかし、長期的な視点から見れば導入の意義が大きいことに変わりはないため、今後も本制度の導入に向けて十分な議論をしていくことが望まれる。

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